はじめに
データ可視化は「グラフを作ること」が目的ではありません。
人が重要な情報を読み取り、意思決定や行動につなげられる状態を作ることが目的です。
本書は、そのための考え方(原理)と、現場で迷いがちなポイント(配色・余白・レイアウト・チャート選定・組織への根付かせ方)を、ベストプラクティスとアンチパターンを交えて体系化してくれる一冊でした。
私はデータ分析の業務に関わっていますが、実務でよく起きる「作ったのに読まれない」「読まれても動かない」を、デザインの観点から分解してくれました。

大前提:認知的負荷を下げる(データ・インク・レシオの発想)
本書の核はここです。
可視化の際は、データを見る人の認知的負荷をとにかく下げる。
現場で効く言い換えをすると、こうなります。
意味のない目盛り、枠線、濃いグリッド、装飾、不要なアイコンは情報ではなく処理コスト。
認知負荷をいたずらに増加させるものです。
「削る=手抜き」ではなく、読み手の脳内作業を減らす“配慮です。
人間の脳は省略しても補完できる。だから“引き算”が効く
人は、すべての説明がなくても読み取れます(むしろ、説明が多いほど迷います)。
本書を読んで強く意識するようになったのは、“言いたいことだけがパッと分かる状態”を作るのが”設計”だということです。
実務で使える引き算
・凡例に頼らず、可能なら系列名を近くに直接書く(視線の往復を減らす)
・強調したい要素以外はグレー寄りに落とす(主役を一人にする)
・1枚に詰め込まず、目的が違うなら分ける(後述の「上位/中位/下位」)
詰め込みダッシュボードは、情報量が多いほど逆に見えなくなります。余白は、読み手の注意(アテンション)を制御するUI部品だと捉えるのがよいと思います。
色は最大3色。基本グレー、グラデーションで十分(色弱配慮も)
配色は最も事故りやすい領域です。
本書でも「オーディエンス主義」が強調され、色覚特性などを含めた中立性・配慮への言及がレビューで取り上げられています。
おすすめの運用は
- グレー:通常状態(ベース)
- アクセント1色:今見てほしい一点
- 補助1色:比較対象(前年差、目標線など)
- それ以外は濃淡(グラデーション)で表現
私のような色弱者にも伝わる設計にするには、色だけに意味を持たせず、位置・サイズ・ラベル・形でも冗長化するのが安全です(「色だけで区別」を避ける)。
テキストもデータである。数字より“言葉”が速い場面がある
「グラフの数値より文字のほうが伝わることもある」は実務で本当にそうです。特にダッシュボードは、まず結論をテキストで置くと意思決定が速くなります。
- 例:「今週の遅延は目標超過。原因はA工程に集中」
- その下に根拠グラフ(棒グラフなど)を置く
グラフは根拠、テキストは結論。役割分担させると、認知負荷が一段下がります。
タイトルは“何の説明か”を確定させる(迷わせない)
本書の主張(目的=伝達)に忠実に考えると、タイトルは装飾ではなく認知負荷の削減装置です。
最低限、タイトルに以下が入るだけで迷いが消えます。
- 対象(何の指標か)
- 期間
- 観点(前年差/目標比/構成比 など)
- 可能なら結論(増えている/減っている/要注意 など)
BANs:重要なことは大きくせよ(強調は“サイズ”が最も安全)
BANs(重要なことは大きくせよ)は、色よりも誤解が起きにくい強調手段です。
KPIの最重要値は大きく、次点は中、補足は小。これだけで視線誘導が成立します。
フォントとレイアウト:見た目ではなく“読み順”の設計
フォント:種類とサイズを増やしすぎない
書籍紹介情報でも「フォントは2種類以下、サイズも4種類以下」といった運用指針が示されています。
「センチュリーゴシック」が実務で“癖が少ない”選択肢としておすすめされています
レイアウト:Zを意識して、重要情報から順に置く
Z型配置は「読む順番」を設計する発想です。
- 左上:最重要(結論/KPI)
- 右上:ニュートラル
- 左下:ニュートラル
- 右下:さほど重要でないもの
チャートはまず棒グラフで考える(棒は拡張性が高い)
「基本は棒グラフ」
棒グラフは比較が容易で、表現のバリエーションも多い(横棒、ランキング、差分、積み上げなど)。
凝ったチャートに行く前に、棒グラフで表現できないか?を検討するのが堅実です。
誰に見せるか”で作り分ける:上位/中位/下位の視点
ここは現場で効く原則です。
- 上位:全体は順調か?(異常検知・俯瞰)
- 中位:チームはうまくいっているか?(比較・ボトルネック)
- 下位:エラー詳細は?(原因追跡・作業単位)
レビューでも「誰が使うのか」「真のペインポイントは何か」といった深層の設計(組織に根付かせる)が扱われる点が評価されています。
1枚で全員を満たそうとすると、結局誰にも刺さらない。ここを割り切れるかが、ダッシュボードの成否を分けます。
データ分析者の役割:建設的なプランの“材料”を渡す
プランは材料がないと具体化しません。可視化はその材料を、相手が使える形で渡す行為です。
だからこそ、
- 分かりやすく(認知負荷を下げる)
- 目的に直結させ(行動変容)
- 使う人に合わせる(オーディエンス主義)
この一連が、分析業務の価値になります。
まとめ
シンプルに書かないと伝わらない、と頭では分かってはいますが詰め込みたくなってしまうのも現実です。
誰に何を見せたいのか?を意識して可視化できるエンジニアを目指しましょう!

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